悶々としていたら車はあっという間に目的地に着いた。あまり乗り気ではなかった紫音だが、いざ展望台に着くとその迫力ある眺めに息を呑む。

 天気がよかったのもあり遠くまでよく見え、まさに絶景だ。

 夕方に差し掛かり山頂なのも合わさって気温がそこまで高くないのもいい。たまに吹き抜ける風が紫音の髪をなびかせる。

 紫音の気持ちは一気に浮上に、軽い足取りであちこちを見て回る。

 展望台の付近にはおしゃれなカフェや雑貨店などが整備され、それなりの人で賑わっていた。

 限定のソフトクリームは山頂を意識して抹茶パウダーがふりかかり、プラス料金で黒蜜をかけられる。

 悩んだ末に注文を決意した紫音に凰理は『よくそんなに甘いものが食えるな』と呆れつつ優しく紫音を見守っていた。

 展望台を満喫した紫音は今度こそ凰理の車でマンション向かう。思ったより道は混んでおらず、スムーズにマンションに帰ってきた。

「今日はありがとう。すごく楽しかった」

 車が停まったタイミングで紫音は素直にお礼を告げた。結果的にひとりで過ごすより有意義な一日になったのは間違いない。

 凰理に対してはなにかと反発心が先に出てしまうが、程よい疲れと高揚感が、それを抑える。彼といることに慣れたとでもいうのか。

「それはなによりだ。デートに誘った甲斐があった」

 隣からは相変わらずの軽口が帰ってくる。反射的に言い返しそうになった紫音だが、ぐっと堪えた。

「……うん、いい経験になったよ」

 友達と過ごすのとはまた違う。少なくとも紫音にとっては自分の希望を口にして寄り添ってもらえたのは貴重な経験だった。

 これをデートと呼ぶのなら、本物の恋人同士でするデートはもっと素敵なものかもしれない。