まぁ、いっか。

 自分が言った手前というのももちろんあるが、なにより今日凰理と一緒に過ごしてみて、思った以上にリラックスして楽しく過ごせたのも事実だ。

 魔王の言う通り、そこまで気を使う相手じゃないからかな?

 紫音は運転する凰理の端正な横顔を盗み見する。はっきりした目鼻立ちは男女と共に目を引く。昔からそうだ。

 それにしても、紫音は凰理の考えていることがまったく理解できずにいた。こうして強引に自分の希望を聞いて叶えようとしているが、動機がやはりしっくりこない。

『紫音を甘やかしたかった』

 ふと彼の言葉が蘇り、体温が急に上昇するのを感じた。とくに頬が熱い。

 なに? 陥落させようってこと? そういえば『お前を落として懐柔させてやる』って言ってたよね。もしかしてこれって罠?

「お前な、百面相しながらこちらを睨みつけるのはやめろ」

 凰理は前を向いたまま苦々しく呟く。いつのまにか視線に気づくほどまじまじと見つめていたらしい。

 紫音はぷいっと顔を逸らし、反対側に顔を向ける。窓ガラスに映る自分と目が合い、流れる景色をぼんやり見つめた。

 凰理にはあれこれ見透かされているのに、紫音は凰理の考えが読めない。彼のことがわからない。その差が悔しかった。

 そこでふと気づく。

 私は、魔王のことを知りたいんだろうか……。

 前世では、宿敵である魔王を倒すべく彼の情報は常に欲していた。ただ、彼がなにを考えているとかそういったものではなく、行動パターンや住み家など基本的ないわば上辺だけのデータだ。

 だって、ほかになにが必要だというの?