そこでふと気づく。デートと提案してきた凰理に、なにか得することはあったのだろうか。

 本屋に付き合ったもののなにも役に立ってはいないし、行きたかった店でアフタヌーン・ティーを堪能できたが、それは紫音の希望だ。

 さらに支払いまでしてもらっている。

 地下駐車場はひんやりとした空気に包まれ、出入口を除いてはそこまで混雑していない。

 凰理の向かう先に視線を送り、紫音は遠目から彼の車がどれなのかおおよそ見当がついた。

 両隣には車が停まっておらず、あまり車に詳しくない紫音でも知っている有名な外国メーカーの黒い車が停まっている。

 凰理は、まったく迷いなく車に近づくと自動でロックがはずれた。律儀に助手席のドアを先に開けて紫音に乗り込むよう促す。

「ありがとう」

 小さくお礼を告げて、紫音は助手席のシートに腰を沈めた。利都の車と造りや雰囲気が全然違う。

「ねぇ」

 凰理が運転席に乗り込んだタイミングで紫音が声をかけた。
 
「あなたにとって今日は……その、私と過ごしてなにかいいことあったの?」

 凰理はシートベルトにかけていた手を止め、隣に座る紫音を見つめた。目が合い、居心地の悪さを感じつつ紫音は続ける。 

「これでも私の希望ばかり通してちょっとは悪かったなって思ってるの」

「その必要はない」

 間髪を入れずに答えられ、逆に意表を突かれた。目を瞬かせる紫音に凰理はまっすぐに告げる。