「ごめん、お待たせ。ドアは無事に直ったみたい」

 最初に駅で事情を説明していたので、紫音は電話の内容を端的に告げる。

「今日はもういいのか?」

「うん、改めてまた出かけることにしたから」

 紫音は再び凰理の前に座り、何事もなかったかのようにカップに手をつけた。

 その後、凰理と他愛ないやりとりを交わしつつ紫音は機嫌よく再びスイーツに舌鼓を打つ。見た目も味も文句ない。

 凰理は紫音の好みを優先しつつ適当に食べ進めている。その気遣いが有難いような、完全に付き合わせてしまっているのだと少しだけ申し訳なくなる。

『デートに誘っているんだ』

『なに? デート?』

……これは、デートって呼べるのかな?

 この店にカップルらしき男女は何組もいたが、自分たちとは親密さも雰囲気もあからさまに違う気がした。

 男女で出かけたらデート? でも利都と外でご飯を食べてもデートって感じじゃないし。

 話す内容も関係性も兄のような、保護者のような立場だ。男女を意識することは、まずない。なら、今はどうなのか。

 さっきから、こんなくだらないことで悩んで、私バカみたい。

 それこそデートという言葉をいちいち真に受けすぎている。凰理にとっては、ただの暇つぶしだ。

 きっと彼は今までデートをいくらでもしてきたのだろう。自分みたいな適当な相手ではなく、本当に付き合っていた彼女たちと。

 その結論に達し、なぜか紫音の胸が痛んだ。店自慢のスイーツの味が急にわからなくなる。

 今まで何人の女性がこうして凰理と同じテーブルについて、彼を正面から見つめてきたのか。

 私には関係ない。

 飲み込まれそうな暗い感情を振り払い、紫音はカップに手を伸ばした。