「そうだな。そして別の誰かが犠牲になる」

 得意げに告げた紫音に対し凰理は小さく言い放った。

 心の中に石を投げ込まれたかのように波紋が広がる。落ち着かない。責められたわけでもいつもの嫌味でも意地悪でもない。

 なにがこんなにも自分をざわつかせるのか。

「ねぇ……前にもこんな話をした?」

 確信はない。けれど尋ねずにはいられなかった。凰理はなにも答えず紫音をじっと見つめる。

 緊張して彼の答えを待っていると、凰理はふっと微笑んだ。

「お前は赤ずきんというより猟師だろ」

 じゃぁ、猟師にやられてしまう狼は魔王(あなた)なの?

 冗談めいた口調で返してやればよかった。けれど今は、そんな気になれない。そのときマナーモードにしていた紫音のスマホが振動する。

 画面を見ると実乃梨で、紫音は慌てて席を立った。

「ごめん、実乃梨から。ちょっと電話に出てくるね」

 そう言って紫音はそそくさと店の入り口の方へ向かう。

『紫音、今日は直前で本当にごめんね。なんとかドア直ったよ』

 通話をオンにすると即座に電話越しに謝罪の言葉が聞こえた。実乃梨が申し訳なさそうな顔をしているのがありありと浮かび、紫音は苦笑する。

「謝らないで。防犯とか心配だしちゃんと直ってよかったね」

『うん。で、紫音はまだ外? 今からでも合流する?』

 実乃梨の提案に目を瞬かせる。そして少しだけ考え込んだ。