「知り合いもなにも、利都こそ……」

「ああ、俺は彼と大学が一緒だったんだ。就職組の俺とは違って凰理は研究者の道を選んだけれど、まさか同じ職場になるなんて思ってもみなかったよ」

 明るく説明され紫音は悟る。利都は前世のことをまったく覚えていないのだ。

 私だって今の今まで忘れていたんだから……。

 寂しさを感じてしまうのは勝手だ。しかし、そうなると凰理との関係を説明するのは難しい。

「父方の親戚なんだ」

 返答に悩んでいる紫音の代わりに凰理が返す。反射的に紫音は凰理の顔を()めつけた。しかし凰理は余裕たっぷりに微笑む。

「会うのは久しぶりだが、昔かなりからかったからご覧のとおり嫌われているんだ」

 もちろんそんな事実はなく、紫音自身も初耳だ。だが当たらずとも遠からず。

「久しぶりだな、紫音」

 説明に説得性をもたせるためか凰理は紫音に声をかけた。しかし凰理の含んだ笑みと言い方に紫音は返事をせず顔を背ける。まるで子どもだ。

 我ながららしくない行動だと自覚はあるが、前世の関係と記憶が蘇った今、早々に切り替えもできない。

 咄嗟の言い訳にしては無茶苦茶だと思ったが、凰理の言い分は利都を納得させるには十分だった。

「なら悪いが、紫音を任せてかまわないか? 俺、仕事を抜けてきたから戻らないと」

 その証拠に、すっかり凰理を信じた利都がとんでもない頼みを口にする。 

「ああ」

「私、ひとりで大丈夫だよ!」

 凰理と紫音の声が重なり部屋に響く。利都はやれやれと肩をすくめた。