紫音はアイスクリームをたいらげると、二段目のスコーンを自身の皿にとった。

 膨らみの割れ目のところに指を添えて力を入れると、丸い形のスコーンは綺麗に割れてふたつになる。

「狼の口だな」

「狼?」

 紫音の動作を見ていた凰理が口を開く。

「その側面にできる割れ目が狼の口に似ているからそう呼ばれるようになったらしい。本場イギリスではこの狼の口がしっかりあるのがいいスコーンの証だって言われる」

「へー」

 紫音は純粋に感心する。凰理の研究分野に関係するからかはわからないが昔からこの男は妙に博識だった。

 本もよく読んでいたよね。

 納得したのと同時に目を見張る。それは誰の話なのか。凰理か、魔王か。

 けれど前世で自分たちは敵対していたはずなのに、彼のそんな一面を知っているわけがない。

 モヤモヤした気持ちを振り払い、紫音はクロテッドクリームを塗った後、クリームの上にジャムを乗せる。

 まだ割られていないスコーンを眺めると、たしかに狼が大きく口を開けているようにも見えてきた。

「狼の口って赤ずきんちゃんみたい」

「お前は疑いなく食われそうだな」

 すかさず返ってきた言葉に紫音は眉根を寄せる。具体的主語がなくてもこのときは凰理の言っている意味はわかった。

 紫音が赤ずきんだったら、という話だ。

「私は狼にそそのかされて寄り道しない。まっすぐに目的地を目指すから」

 そうすれば赤ずきんどころか、おばあさんも食べられることもない。