一番下の軽食から食べるのが礼儀かもしれないが、溶けそうなものを先に食べてしまおうという気持ちは間違っていないはずだ。

 スプーンで一口すくい口の中に入れると舌の上にひんやりと冷たさが伝わり、次に甘みが広がる。

 甘いものが好きな紫音はこれだけですでに幸せだ。

 自然と笑顔で食べ進める紫音だが、不意に目の前の男と視線がぶつかる。凰理はまだどれにも手を付けておらず、こちらをじっと見つめていた。

 自分ひとりだけ食べていた状況にさすがに居心地が悪くなる。

「……もしかして甘いもの嫌いだった?」

 さっきはああ言ったものの心の中に急に不安が広がる。ここを提案したとき、凰理は驚いていたが拒否はしなかった。

 一方、紫音が強引に話を進めたのも事実だ。

 凰理はおもむろにティーカップに手を伸ばす。

「いや。珍しい顔をするから眺めていただけた」

 カップに口をつける姿はなかなか優雅だ。しかし紫音の胸中は穏やかではない。

「ど、どういう意味?」

 そんな変な顔してた? 魔王を前に油断しすぎ?

 動揺を出さないようにして尋ねるが、凰理は気にせず答える。

「本当に好きだって表情だな」

「……好きでもないのに行きたいなんて言わないけれど?」

 やはり凰理の言わんとすることはよくわならない。肩透かしを食らった気分で紫音は律儀に返した。

 凰理は紫音とは対照的に一番下の皿の軽食に手をつける。本来そちらがマナー通りだ。