あえてランチタイムにやってきたのは正解だ。それでも少し待ったくらいだった。

 スタッフがティーポットとカップを持ってくる。紫音はおすすめのアフタヌーンティーブレンド、凰理はアールグレイを選んだ。

 本当はコーヒーの方が好みでメニューにもあるが、この場面でコーヒーを選ぶほどのこだわりもない。

 店内は紫音と似た考えでやってきた客が何組か同じものを注文していた。

 だいたいどのテーブルも複数人で来客していて、カップルや女性同士が多い。

「これ、ふたり以上じゃないと注文できない期間限定スペシャルメニューなの」

 紫音はこの店を選んだ理由を凰理に説明する。

「実乃梨はあまり甘いものが好きじゃないから。好きじゃないものに付き合わせるのは申し訳ないし」

 紫音が誘えば、実乃梨は付き合うと言ったかもしれない。しかし値段もそれなりに張るので、好きではないものに対して気軽に声をかけるのは気が引けた。

 忙しい利都を付き合わせるのも躊躇われる。普段から気にかけてもらい、世話になっているのだから、そこまで自分の希望を通していいものか。 

「俺はいいのか」

「好きなところでいいって言ったじゃない。それに魔王に気を使うのも無駄だなって」

 紫音の話を聞いていた凰理がため息混じりに漏らすので、すかさず言い返す。

 続けて「いただきます」と小さく告げて、紫音は一番上の皿からアイスクリームの入った器をそっと取った。