研究者や業界人の御用達で、凰理も何度かインターネット経由で利用したことがあるが、なかなか店に直接行く機会はなかったんだとか。

 そして今回、目当ての本の取り置きを頼んだうえでやって来たというわけだ。

「実際に店に来てみると、他にも気になる本が出てくるからきりがないな」

 苦笑する凰理に紫音は尋ねる。

「……探しものは、見つかった?」

 なにげない質問のはずなのに、わずかに緊張が走る。先ほどの記憶と妙にリンクしていた。

「ああ」

 だからか、凰理のなにげない返答に紫音の心が揺れた。次の瞬間、涙腺が緩みそうになり慌ててうつむく。

「それは……よかったね」

 小さく呟いて返したが本心だ。こんなにも安堵する理由はわからないけれど。

 先に店の外に出ていると告げ、紫音は凰理に背を向けて外の世界を目指した。暗い店内から一転、大袈裟かもしれないが、太陽の光に、異世界から帰ってきた気分になる。

 大きくため息をついて、店の外に出されている本をぼんやり眺めていると声がかかった。

「待たせたな。体調は?」

 店内から凰理が出てくる。右手には丈夫な黒のトートバッグを持ち、中に何冊か本が入っているのが見受けられた。

「大丈夫。こんなにたくさんの本に囲まれたの、久しぶりだったから」

 答える紫音に凰理は歩み寄る。彼からバッグに視線を移し、紫音は右手を差し出した。

「どうした?」

「持とうか? それくらいしか、ついてきた意味がなさそうだから」