『そうやって、ずっと探しているの?』

 尋ねたのは自分だ。ただし紫音の記憶ではない、前世のシオンのときだ。ここは魔王が集めたという古文書が際限なく収納されている。

 気が遠くなるほどの書物を彼は確かめるように一つ一つ手に取って確認している。

 おかしい、自分はどうして宿敵魔王を前にしてこんな切ない気持ちになっているのか。この質問は、どういうつもりで投げかけたのか。

 魔王はこちらに見向きもせず、本と向き合っている。流れるような黒髪、眼光が鋭く見る者を威圧させる風格は魔王にぴったりだ。

 その一方で目鼻立ちがはっきりとした端整な顔立ちは多くの者を魅了する。シオンはひたすら彼を見つめた。ややあって魔王の口が動く。
 
『――いつか見つかるかもしれない』

 言い終えて本を閉じ、こちらを向いた彼と目が合う。

「紫音?」

 そこで我に返った紫音は思わずよろけそうになった。軽い立ち眩みを起こし、足に力を入れる。

 今のは、なんだったのか。前世の記憶だろうが、はっきりさせられない。

「大丈夫か? 少し酔ったか?」

 心配そうに凰理が声をかけて近づいてくる。これは今だ、現実だ。

「へい、き……ここ、よく来るの?」

 深く突っこまれたくなくて、わざと話題を逸らす。

「いや、ここに来たのは初めてだ」

 ところが返ってきた意外な回答に紫音は目を丸くした。

 来慣れていたように思えたが、凰理によるとこの店は専門書や古書を中心に扱っているもののインターネットでの販売がメインらしい。