やっぱり馬鹿にされているんだ。

 ムッとしたのも束の間、凰理は紫音の手を離さないまま空いている方の手でそっと彼女の頭を撫でる。

「なにもなくてよかった」

 安堵したという表情に、紫音は反射的に繋がれている手を離した。これ以上、この男のそばにいたら心臓がもたない。自分らしくいられない。

「と、とりあえず、ありがとう。あなたがタイミングよく現れたから助けられた」

 早口で捲し立てたものの今の紫音の精いっぱいの素直さだった。本当はもっと気さくにお礼を言いたい。感謝だってしている。

 けれど凰理を前にするとどうしても前世の関係を思い出して、ぎこちなくなってしまう。

「この借りは、またなんらかの形で……」

 ほら、こんな言い方さえ前世を引きずっている。きっとここは〝お礼〟でいいのに。

「なら、今返してもらう」

「へ?」

 わずかに後悔を滲ませていたら予想外の切り返しがあり、紫音は間抜けな声をあげる。

 凰理を見ると、余裕たっぷりに微笑んでいた。彼の笑顔を見て、紫音の背中に一瞬、嫌な汗が伝う。

 これは、もしかするととんでもないことを言ってしまったのでは……。

 なにを要求されるのかと目を瞬かせていると凰理は離れた紫音の手を再び取った。

「ちょっと付き合え。用事はなくなったんだろ?」

「そ、そうだけれど……付き合うってなにに?」

 紫音の問いかけを受け、凰理は改めてまっすぐ彼女を見つめる。ふたりの視線がゆるやかにぶつかった。