日曜日の昼前、駅の改札口を抜けたところで紫音はカバンに入れていたスマホを取り出す。届いているメッセージを確認すると差出人は予想通りだった。

 ところが送られてきた内容に目を見張る。

【ごめん、紫音。アパートのドアの鍵が壊れて、業者さんが来てくれることになったの。だからちょっと家を空けられなくて……土壇場でこんなことになってごめんね】

 よく見ると、メッセージが届いたのは三十分以上前だ。実乃梨から送られてきたもので、不在着信も何件か残っている。

 おそらく紫音に早く伝えなければと焦ったのだろう。今日は実乃梨と買い物とお茶をする予定で紫音は待ち合わせ場所に来ていた。

 もう少し前に確認しておくべきだった。家を出てから一度もスマホを触らなかったことを悔やむが、もう来てしまったものはしょうがない。

 ひとまず実乃梨に返信をして、改めてこの後の身の振り方をしばし逡巡する。

 たいていは実乃梨が見たいものや行き先を決めて、紫音は彼女に付き合うがてら自分のものも見るのが定番だった。

 その流れに不満を抱いたことはないし、むしろ自分より流行に敏感でセンスのある実乃梨についていくのは楽だった。

 ひとりで行動することに抵抗はないが、今日も実乃梨に任せていた部分が大きいので、少なからず戸惑ってしまう。

「ねぇ」

 不意に声かけられたが、紫音はそれが自分に向けられたものなのかどうか一瞬わからなかった。

 目を動かせば自分と同じか、やや年上の男性が馴れ馴れしい笑顔で話しかけてくる。