苦手な暗闇の中、宿敵魔王並んで座っているのはなんとも奇妙だった。けれど今は彼の存在に救われている。

 徐々に目が慣れてきて、紫音の心には少し余裕が生まれた。外の雨脚は一向に弱まらないが、静かな世界に程よい音を運んでくる。

 沈黙を破ったのは紫音の方だった。 

「ねぇ、私たちって最後はどうなったの?」

「最後?」

 隣からおうむ返しで尋ねられる。紫音は前を向いて小さく補足した。

「前世の話。色々思い出したけれど最終的にどうなったのか、記憶は曖昧で……」

 自分は勇者で魔王を倒すために旅に出ていた。たまに現れる魔王とやり合いつつ敵対していたところは覚えている。

 しかし最後はどうなったのか。無事に自分は勇者として魔王を倒せたのか。それとも魔王に返り討ちにされてしまったのか。

 思い出したいのに思い出せない。小骨が喉に引っかかったような気持ち悪さだ。

「なんだ、あんなに愛し合ったのを微塵も覚えていないのか」

「嘘はやめて」

 あっけらかんとした凰理の回答に、紫音は脊髄反射で切り返す。

「魔王に堕ちるとかありえない」

 眉根を寄せて断言すると、どっと脱力した。聞く相手が悪かった。その前に質問した自分の愚かさを呪う。

「どうして嘘だって言える?」

 ところが凰理が真面目な声色でさらに返してきたので、紫音の思考は停止した。

「え?」

 思わず隣を向くと、凰理の表情は見えないまでも彼がこちらに視線を送っているのは伝わってきた。

「なにも覚えていないのに?」

 真剣な声色で畳みかけられ、さすがに紫音も狼狽(うろた)える。