視界が唐突に不鮮明になり紫音は思わず立ち上がった。

「あっ」

 視界が奪われたことで立ちくらみにも似た感覚にバランスを崩す。すぐそばにあった本の塔に体が触れ、紙が滑り崩れる音がする。そこにまた足を取られそうになった。

「動くな」

 転ぶのを覚悟した寸前、すかさず腕をとられ手を引かれるようにして再びその場にしゃがみ込んだ。右手首をしっかりと凰理に掴まれる。

「お前な、こういうときは目が慣れるまでじっとしてろ」

 続けて呆れた声が紫音の耳に届く。上から降ってくるものばかりだったのに、今はすぐ隣から聞こえた。どうやら彼も紫音と同じように座ったらしい。

 表情どころか顔さえ見えない。けれど掴まれている箇所から伝わる温もりや手の感触ははっきりとしていて、不明瞭な世界ですぐそばに凰理の存在があった。

「……紫音?」

 さっきから反応がない紫音を不思議に思い、凰理が名前を呼ぶ。だが、紫音はなにも答えない。声を出す余裕がなかったのだ。

 長く息を吐いて乱れる鼓動を落ち着かせようと躍起になる。その様子から凰理の脳にある考えが過ぎった。

「お前、まさか暗いところが」

「違う!」

 凰理が言い切る前に紫音は否定する。けれど続けられた言葉は、いつもの紫音からは想像できないような弱々しいものだった。

「ここ、狭いから。真っ暗だと圧迫感があって、息苦しくて、それで……」

 しどろもどろに答えるが、上手く言いたいことがまとめられない。ややあって紫音は観念し、精いっぱいの虚勢を張る。