「わっ、もう真っ暗」

「先生、送ってくださいよ」

「また遊びに来ていいですか?」

 好き勝手思いついたまま話す学生たちは、おそらく凰理のゼミ生だろうとすぐに察する。彼も四限はゼミを受け持っていた。

「用事がないなら来なくていい。レポートの提出は一秒でも過ぎたら受け付けないからな」

 厳しい言い方をしても彼女たちには通用せず『はーい』と笑顔で返事をして去っていく。

 反対方向に立っていた紫音は無意識に息を殺してその様子を見守っていた。しかになにを思ったのか不意にこちらを向いた凰理と目が合う。

「紫音?」

 なにも悪いことはしていないのに紫音の心臓は跳ね上がった。まるで悪戯がバレた子どもみたいになる。

「どうした?」

 ばつが悪そうな紫音をよそに凰理は紫音に近づき尋ねてきた。

「えっと……高原教授に本を借りてくるように言われて……」

 正確に言うと異なるが、この際かまわない。続けて紫音は高原に聞いた本のタイトルをそのまま凰理に伝えた。

「ああ、たしか持ってたな。高原先生も持ってなかったか?」

「今、手元にないみたいで……」

 事情を説明すると凰理はさっさと自身の研究室に戻っていく。紫音も後を追うがドアの一歩手前で足を止めた。

 その行動を不審に思った凰理が部屋から顔をのぞかせる。

「入らないのか?」

「ここで待ってる。ゼミ生でもないし」

 ぶっきらぼうに紫音が答えると、凰理は目を白黒させた。

 妙な線引きだと紫音自身も感じるが、どうしても素直になれない。ややあって凰理は微笑みドアを大きく開けた。

「なら、いつになるかわからないぞ」 

 紫音は目を大きく見開いた。