『シオン』

 名前を呼ばれて振り返ると、そこにはパーティーのまとめ役である魔術師の姿がある。

 ほかにも無愛想だが腕は確かな剣士、可愛らしい少女の外見をした魔法使い、姉御肌で色気たっぷりの武闘家、穏やかでいつも笑みを絶やさない僧侶。

 みんなシオンの大切な仲間だ。魔王を倒すべく共に旅をしている。だが、真に勇者として選ばれたのはシオンの弟だ。

 しかし出発前に弟が病に倒れ、勇者として旅には出せられないと両親がシオンに代わりになるよう告げてきた。

 だからシオンは弟の身代わりとなり、男として勇者として振る舞うと決めた。だから女であることは仲間でさえ知らない。

 ただひとり、彼をのぞいて。

『まぁ、元々色気もないから女の格好をしたところでたいして変わらないだろ』

 目を開けたのと同時に勢いよく体を起こす。見慣れない天井とベッドに状況が把握できない。ただそれらの疑問を通り越して、怒りで肩が震えるのを紫音は必死で押さえた。

 おかしい。今の今までどこにでもいる普通の女子大生として生きてきたのに……。

 そもそもおかしくない? なんで異世界から現代なの。これ、どこの層に需要があるの? 普通は異世界転生とか転移とかそういうもんでしょ!

 心の中でひたすら現状にツッコミを入れる。どうせなら今すぐにでも異世界に転生したいが、それは叶いそうもない。

 ああ、もう――。

 紫音は大きくため息をつき頭を抱える。サラサラの髪に指を滑らせ、ある決意をした。

 まぁ、いいや。もう夢ってことにしよう。うん、なにかの夢。幸いここは現代だし……。

「紫音」

 必死に自身を納得させていると聞き覚えのある声が聞こえ、紫音は我に返った。