備え付けのスクリーンに用意していた資料などを映し、時折学生に話を振るなどして、適度に緩急をつけた講義編成は飽きさせない工夫がされている。

 なにより凰理の声は低すぎずよく通る。聞き取りやすく耳に心地いい声だ。

「人々は、病や自然災害など自分たちの手ではどうにもならないものの原因を探した。なんでもいい。わからないことが恐怖だからだ」

 どこの国でも、どこの時代でも、信仰は存在する。凰理の説明を聞きながら、紫音はどうしてか胸の痛みを覚えた。身につまされる思いはどこからくるのか。

「真実かどうかが大事なんじゃない。原因はこれだと決めさえすれば、誰かが悪者になれば、残りの者の気持ちは落ち着く」

『全部魔王が悪いんだ』

 紫音の頭に前世の記憶が降ってくる。

 あのとき、どうして魔王討伐の旅に出なくてはならなかったのか。魔王は人を(さら)っていたと聞いた。

 いくつかの村は魔王の支配下におかれ、村でとれる農産物を没収されていると聞いた。それで多くの者が嘆き悲しみ、苦しんでいると。

 けれど全部、聞いた話だ。直接シオンが見たわけでもない。村で流行(はや)り病が起こり、何人もが亡くなった。農作物が取れず、食料も十分ではなかった。

『全部魔王が悪い』『魔王さえ倒せば、村は救われ平和になる』

 本当にそうだったの?

 凰理自身が悪かったのか、それともただ『魔王』という悪者が欲しかっただけなのか。

 知らない。知ろうともしなかった。魔王は憎むべき相手で、敵だ。

 凰理はどう思っていたのだろうか。憎まれ、自分に立ち向かってくる何人もの勇者を相手にして。