レジュメも要点をうまくまとめており講義への興味もそそられる作りだ。癖で気になる箇所に先に印をしておこうと紫音はペンを取りだす。

 すっかり学ぶ気になっていると、軽くどよめきが起こった。

 凰理が部屋に入って来たのだ。女子たちの黄色い声があちこちで飛び交うが、凰理本人は気に留めていない。注目されるのは慣れているのだろう。思えば前世からそうだった。

 魔王を倒そうと立ち上がる“勇者”はシオンだけではない。逆に魔王に傾倒する者も現れ、彼の存在はますます目立ち、恐れられていった。

 今は違う意味で注目されている。ざわめく場の雰囲気がどうしても気になり、紫音は軽く溜め息をついてペンを置いた。

 だから集中できないって言ったの。

 周りの浮つく空気も、凰理を見て心を乱されるのも。

 やはりここを去ろうかという考えが頭を過ぎったが、それは二限開始のチャイムが鳴ったので実行できなかった。

 こうなってしまっては仕方ない、紫音は講義に集中する。

 凰理はマイクの調子を確認するついでに、レジュメが行きわたっているかどうかを確認した。すると慌てて何人かが立ち上がり、前に取りに行く。

 レジュメのデータは大学が運営する学生用ネットシステムにもアップロードされているので、パソコン画面を開く学生もちらほらいた。紫音は断然、直接書き込む派だ。

 予想通り、凰理は基本的に前を向いて視線を遠くに向けて話すので、前も方の左端の席に座る紫音を視界に捉えることはなかった。