画面を確認すると学生番号が記されていた。大学からの連絡メールだ。素早く本文を開くと『貨幣経済史 休講のお知らせ』という内容が目に入る。

 思わず二度見して紫音は天を仰いだ。こんな土壇場で休講とはついていない。おそらく突然決まったことなのだろう。

 小山教授も年齢が年齢なので休講になった事情も気になるところだ。しかしそれは今、探りようもない。とにかくこの後の予定がまるっと空いてしまった。

 せめてカフェテリアを出る前ならこの本を読み終えるまで粘ったのに、なんともタイミングが悪い。

 再度飲み物を注文して居座るのも気が引ける。今日は午後からゼミがあるので一度帰宅するのも面倒だ。あれこれ思い巡らせ、紫音はある時間の潰し方を思いついた。

 だが、それは紫音にとってあまり喜ばしい方法ではない。とはいえ他のどの時間の使い方よりもある意味、有意義だ。

 一限終了のチャイムが構内に鳴り響き、紫音は共通教育棟に足を運ぶ。入れ替わりで出てくる人の波を掻き分けながら、一階にあるオリエンテーションも行われた一番大きな部屋を目指した。

 共通教育は、大学生の一般教養を目的とし、学部や学科の垣根を越えて受講できるのが特徴だ。

 学年が上がるにつれ専門科目が増える分、低学年時に履修する割合が高い。必然的に受講人数はどうしても多くなるので開講する部屋はそれなりに広かった。

 紫音が部屋の中に入ると、休み時間が始まったばかりだというのに意外にも席は埋まりつつあった。四月ゆえの新入生の真面目さとでもいうのか、担当教員の問題か。