そもそもどうして玄関を出てすぐのところで凰理に会うのか。それは……。

「隣人にはもう少し愛想よくしておいたらどうだ?」

 なにげなく紫音の頭に手が置かれ、彼女の眉間の皺はさらに深くなった。

 実はこの四月から空いていた紫音の隣の部屋に引っ越してきていたのが凰理だった。

 それを知ったのが、凰理が紫音と四宮の間に割って入り、最終的に彼女を家まで送り届けた日の夜のこと。

『部屋まで送ってくれなくても平気だから』

 酒だって飲んでいない。しかし凰理は紫音に付き添い、マンションの中まで入ってきた。さらにはエレベーターの中まで乗り込んでくるので、あまりに遠慮がない凰理にさすがにムッとする。

『女性の部屋の前までついてくるなんて、むしろ失礼じゃない?』

『自分の家に帰るついでだ』

 意味がわからない。マンションの中まで入ってきている時点でついでとは呼ばないのではないか。そう言ってやろうとしたとき紫音の部屋の前までたどり着く。

『私の家、ここだから』

 ぶっきらぼうに言い捨て、もう帰るよう凰理に目で訴える。紫音の視線の意を汲んだ凰理はふっと微笑み彼女の頭に手を置いた。

『じゃぁな』

 なにか言うべきなのかと一瞬迷ったが、紫音はそのまま通り過ぎていく凰理を無言で見つめる。そして――。

『ちょっと待って』

『なんだ?』

 紫音の硬い声に凰理はなんでもないかのように答えた。そのとき彼の手はドアノブにかかっていて、ちょうど紫音と並ぶ形になる。

『人の家の隣でなにをしてるの?』

『なにって、自分の家に帰ってなにが悪い?』

『はぁ?』

 凰理が向かったのは来た方向とは真逆で、彼は紫音のすぐ隣の部屋の前で立ち止まった。そしてなんの躊躇いもなく鍵を開けたのだから二度見せずにはいられない。