紫音は朝から機嫌がよかった。目覚ましが鳴る前に目が覚め、カーテンを開けると眩しい光が降り注ぐ。

 快晴だと直感しシャワーを浴びてさっぱりした後、いつもの洗濯に加えシーツも洗って干した。今晩、お日様の光に包まれ眠りにつくことを想像すると顔がにやける。

 ささやかな幸せを噛みしめ、ここで一息ついて時計を見るとまだ八時半過ぎだった。一限は九時から始まるが、今日の講義は二限からとっているので時間的にもだいぶ余裕がある。

 この際早めに大学に行き、二限が始まるまでカフェテリアでコーヒーでも飲みながら買っていた文庫を読んでしまおうと思いつく。

 まだ最初の方しか読んでおらず、まとまって読む機会を探していたのでちょうどいい。決めたら後の紫音の行動は早かった。

 さっさと支度を整え、玄関に向かう。今一度、鏡の中の自分を見て微笑み、紫音はドアを開けた。

 化粧もばっちり。短くなった髪は洗うのも乾かすのもだいぶ楽になった。

 うん、今の自分も悪くない。

「おはよう」

 清々(すがすが)しい気分で部屋の外に出たのに、その途端耳に入ってきた声で紫音の気分は急降下した。明るかった顔がどっと暗くなる。

 あからさますぎる紫音の態度に声をかけた本人は眉をひそめた。

「なんだ、その顔は。外はいい天気だっていうのに」

 欝々とした気分がからっと晴れるような空なのに、それを跳ね除けてしまう人物に会ったのだからしょうがない。本人もわかって言っているに違いないので余計たちが悪いのだ。

「……いい天気の中、なんで朝からあなたの顔を見ないといけないの」

 恨みがましく紫音が唱えると凰理は眼鏡の奥の瞳を細めた。

「嬉しいか?」

「誰が!」

 反射的に返して紫音は我に返る。相手のペースに乗せられてはだめだ。