幸いなことに、ひとつしか年の違わない弟とは異性ではあるが背格好は似ていた。元々クオンはがっしりした体形でもない。 『勇者=男性』という先入観にも助けられた。

 それを、まさか初対面の宿敵に見破られるなんて。

『ふざけるな。そんなことをしなくてもお前は私が倒す』

 シオンは警戒心を露わに宣言する。誰のせいでこんな事態に陥っていると思っているのか、恨みを込めて向かって行いってやりたい。

 とはいえ今ここで魔王と戦うのは得策ではないことくらい理解できる。彼は今まで何人もの我こそはという勇者を返り討ちにしてきたと聞いている。

『たしかにお前相手にその気は起きないな』

 反発しそうなのをシオンはぐっと堪えた。とにかくこの機会に魔王の情報を探ろうと試みる。

 それからシオンと魔王は口喧嘩にも似た応酬をし、最後に魔王が改めて言い放った。

『まぁ、元々色気もないから女の格好をしたところでたいして変わらないだろ』

『は?』

 さすがに青筋を立てて反応してしまう。魔王は余裕のある笑みで紫音を見下ろした。

『どんな格好をしてもどんな姿になってもお前はお前だろうからな』

 その言葉をどう受け取ればいいのか。男装は無意味とでも言いたいのか。それとも本気で女の魅力がないと馬鹿にしているのか。

 理解できない。鼻持ちならない男だ。けれどシオンは初めて宿敵である魔王とやりとりし、そこまで彼に対する憎悪も恐怖も抱かなかった。

 憎むべき、倒すべき相手なのに。