「なんで? 髪長いの似合ってたし、服装もスカートの方が絶対にいいのに」

 ここは冗談と受け取って流すべきなのか。それにしては、四宮の言い方にはじめっとした本気さが張り付いていて、妙な押し付けを感じてしまう。 

「ほぼ一目惚れだったんだよね」

 紫音の反応を待たずに四宮は同じトーンでさらに続けた。さすがに紫音も冷静ではいられない。

 誰が誰に、というのはなかったが、状況から察するに自分が無関係ではないことくらい理解できる。

「俺の理想通りでさ。今日も神代さんに会いたかったんだ。でもあまりにも外見が変わってて正直驚いたなぁ」

 驚いたというより残念だという声色だ。紫音は無意識に四宮から距離を取る。しかし彼は逃すまいと隣に座る紫音の腕を掴んだ。

「俺としては、前みたいな格好をしてほしいんだけど」

「私……帰ります」

 紫音は無表情で静かに呟いた。

「神代さんの家、大学からちょっと離れてるって言っていたよね。送っていくよ」

「結構です」

 まだ終電には十分に間に合う。四宮の言う通り紫音のマンションは大学から距離があり、さらにいうなら大学生が住むには立派過ぎるものだった。

 利都の父が不動産関係の仕事をしておりその縁で大学に入学してからはそこで一人暮らしをしている。

 ちなみに利都も同じマンションに住んでおり、そういった事情も含め仲のいい友人以外には極力マンションの場所を教えず招き入れたりもしていない。

「にしてもさ、やっぱり前みたいな格好が絶対いいって。付き合ったら戻してくれる?」

 嫌悪感で紫音の顔が臆面もなく歪む。どうして他人にそこまで見た目を固執されないとならないのか。どんな格好をしていても紫音が紫音なのは変わらない。 

 その考えが過ぎり、昔の記憶となにかが重なった。そこから吸い込まれるように前世の記憶が生々しく蘇っていく。