もう何度目かわからないため息をついたときだった。 

「隣、いい?」

 女子たちの間に割って入り、紫音に声をかけてきたのは四宮崇彦(たかひこ)だ。純朴な雰囲気を纏う彼は、自分のグラスを片手にさりげなく紫音の隣に座る。

「やっと話せた。なんか学部のオリエンテーションで倒れたって聞いたけど平気?」

「大丈夫です」

 紫音は慌てて返す。四宮は襟付きのチェック柄のシャツにデニムパンツとこの前会ったときと似た格好をしていた。

「今日も飲んでないの?」

「まだ未成年なので」

 きっぱりと答える紫音に四宮はおかしそうに笑う。そんな彼は紫音より一学年上でしかも一浪しているので遠慮なくアルコールを飲んでいた。

「ね、ちょっと外で話さない?」

「え」

 思いがけない四宮の誘いに紫音は目をぱちくりとさせる。

「ここ、騒がしいし。神代さんとゆっくり話したいんだ」

 いつもの紫音なら断っていたが、さっきから振られる同じような話題に辟易していたのもあった。今日はこの場をさっさと退散してしまいたい。

 参加費は先に徴収されているし、問題ないだろう。部屋を出る際、実乃梨に視線を送ると、彼女は小さくガッツポーズで応えた。

 なにを期待しているのかと苦笑しつつ紫音は四宮と共に店の外に出る。

 外はすっかり暗い。大学の周りは学生をターゲットにした飲食店が多数並んで賑わいを見せているが、基本的には静かだ。

 すぐそばの公園と呼ぶには遊具のない空き地に足を運び、四宮に促されるままひとまずベンチには座る。

「ガッツリイメチェンしたねー」

 紫音の左隣に腰を下ろした四宮が笑いながら指摘してきた。

「変、ですか?」

「変じゃないよ。ただ俺は前の神代さんが好きだな」

 あまりにもきっぱりと言い切られ、さすがに目を白黒させる。しかし四宮は悪びれた様子など微塵もなく笑みを(たた)えたままだ。