服装はそのままで、ネックレスとイヤリングなどアクセサリーを身に着け、見知った顔が十人ほどの集まりに紫音は参加した。

 指定された店は大学の近くで、学生御用達だった。むしろ大学近辺の店はどこも学生相手で成り立っていると言っても過言ではない。

 座敷に長机と宴会仕様で、年季の入った店内はお世辞にもお洒落には程遠い。けれど出てくる料理はすべて手作りで美味しく、感じのいい夫婦が営んでいる。値段も良心的で、ときどきおまけまでしてくれるのだ。

 紫音もここの料理が大好きで、どちらかといえばそちらを楽しみにしていた。しかし開始三十分で盛り上がる面々とは対照的に、彼女の気分は沈んでいた。

「風間先生と親戚なんて羨ましい」

「軽々しく抱き上げちゃって王子さまみたいだったって後輩から聞いたよ」

「えー。見たかった」

 なぜか昨日の騒動について話したこともない女子たちに囲まれていた。みんな紫音に、というより凰理への興味で話しかけてくる。

 紫音は愛想笑いを浮かべながら適当に返事をしていた。

「王子なんて……魔王だよ」

「えー。魔王の風間先生、見てみたい!」

 引きつり笑いで返したが、相手にはまったく届いていない。アルコールも入っているからか皆、やけにハイテンションだ。

 紫音も同じように飲んでしまえばいいのかもしれないが、タイミングを逃しまだ酒を口にしたことはない。

 ちびちびと烏龍茶を口にしながら料理をひたすら堪能するも、この話題と周りとの温度差に居心地の悪さを感じてしまう。

 私、なにをしにここに来たんだろう。

 実乃梨は実乃梨で近くに座った者同士、楽しそうにしている。彼女に気を遣わせるのも申し訳ない。

「たしか事務の福島さんも親戚とかじゃなかった?」

「従兄だっけ? イケメンに囲まれて羨ましい」

 どうでもいい会話が耳を通り過ぎていく。どうしてここでも魔王の話題に振り回されないとならないのか。