改めて思い直し、実乃梨の話は終わったのか確認しようとする。そのときだった。

 不意に紫音と凰理の視線が交わった。凰理はすっかり見た目が変わった紫音に驚いたのか目を丸くしている。紫音はあからさまに彼に背を向けた。

 こんなことをしたら意識しているのが相手にも伝わってしまう。

 違う、魔王は関係ない! これは前世からの条件反射というか……。

 誰に言われたわけでもないのに紫音は自分で頑なに否定する。無意識に髪先を触ろうとしたが、その手は宙を掴んでしまった。

 改めて短くなった髪に触れ、肩を落とす。

「紫音、今晩空いてない?」

「な、なに突然」

 唐突に話を振られ、紫音は頭を切り替える。実乃梨はスマホ片手に笑顔だ。

「大石がちょうどバイトが休みになったらしいんだけれど、よかったらまた何人かでご飯行こうって。紫音も行こうよ。四宮くんも来るって」

 最後だけはやけに猫なで声だ。そんな気分ではないと断ろうと思った紫音だが、即座に考えを(ひるがえ)す。

「行く」

「お、珍しい。紫音もついに恋愛に前向きになった?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべる実乃梨はこの際、無視する。

 恋愛云々というより、とにかく前世に引っ張られるのは、魔王のことを考えて振り回されるのは、もうやめよう。

 せっかく平和な世界に生まれ、憧れだった女子としての生活を満喫しているところだ。遊びに勉強、恋に生きたってばちは当たらない。

 出会ってしまったものはしょうがないが、これ以上凰理を意識したくない。

 四宮に好きという感情はないが、実乃梨の言う通り、流れによっては付き合ってみてもいいのかもしれない。

 意気込む紫音は、珍しく自分の背中に注がれる視線に気づいていなかった。