「凰理に聞かれて、私が『河野詩音です』って告げたときのあなたの顔。なににそんな驚いているんだろうって思ったけれど、詩音って名前にだったのね」
告白慣れしているはずの凰理が珍しく狼狽えた表情を見せたので、詩音はなにかまずいことを言ったのかと不安になった。
断られるにしても、そこまで気まずそうにされるのは心外だ。
不満を覚えそうになったが、凰理からの結果は、まさかのOKですぐにそのことは頭から消え去った。信じられない気持ちでいっぱいになる。
そうやって始まったふたりの交際だが、すぐに詩音は小さな違和感に気づいた。
「凰理に優しく名前を呼ばれるたび、幸せだけれどどこか切なかった。わかったの、私。ああ、この人は私なんて見ていないんだって」
「俺は」
凰理が口を挟もうとしたが、それを素早く詩音が制する。そして極力明るく凰理に告げた。
「好きな人と付き合って一緒にいるのに、それってものすごく不毛じゃない? 失礼すぎるわよ」
わざとおどけて言ってみせる。今だから口にできる内容だった。付き合っている当時は、怖くて自分から切り出せなかった。
けれど小さな綻びはどう足掻いても大きく広がっていくだけ。最終的に詩音から凰理に別れを切り出した。
就職を決まったのを言い訳にしたタイミングで、詩音なりに一種の賭けだった。
少しは引き留めてくれるのか、彼の今まで付き合った彼女たちに比べたらそれなりの長さを共に過ごしてきた。自分に執着を見せてくれるのか。
しかし結果は悲しくも予想通りのものだった。
告白慣れしているはずの凰理が珍しく狼狽えた表情を見せたので、詩音はなにかまずいことを言ったのかと不安になった。
断られるにしても、そこまで気まずそうにされるのは心外だ。
不満を覚えそうになったが、凰理からの結果は、まさかのOKですぐにそのことは頭から消え去った。信じられない気持ちでいっぱいになる。
そうやって始まったふたりの交際だが、すぐに詩音は小さな違和感に気づいた。
「凰理に優しく名前を呼ばれるたび、幸せだけれどどこか切なかった。わかったの、私。ああ、この人は私なんて見ていないんだって」
「俺は」
凰理が口を挟もうとしたが、それを素早く詩音が制する。そして極力明るく凰理に告げた。
「好きな人と付き合って一緒にいるのに、それってものすごく不毛じゃない? 失礼すぎるわよ」
わざとおどけて言ってみせる。今だから口にできる内容だった。付き合っている当時は、怖くて自分から切り出せなかった。
けれど小さな綻びはどう足掻いても大きく広がっていくだけ。最終的に詩音から凰理に別れを切り出した。
就職を決まったのを言い訳にしたタイミングで、詩音なりに一種の賭けだった。
少しは引き留めてくれるのか、彼の今まで付き合った彼女たちに比べたらそれなりの長さを共に過ごしてきた。自分に執着を見せてくれるのか。
しかし結果は悲しくも予想通りのものだった。