「あーーーーーーー!」

 ずっと探し続けていたものを不意打ち気味に見つけたときの感覚。意識せずとも腹の底から声が出て紫音(しおん)は立ち上がった。

 生まれてこの方『目立ちたがり屋』とは縁遠い人生を送り、二十年余りになる。

 地味に、慎ましく、真面目に生きてきた。どこにでもいる普通の女子大学生。

 それなのに今、ゆうに百人は超えるであろう部屋の中の人間の視線を一気に引き受けているが、気にする余裕もない。紫音の瞳には彼しか映っていなかった。

 叫ばれた当の本人はこの状況を歯牙にもかけず、むしろ紫音を見て、ゆるやかに口角を上げる。その笑顔には見覚えがあった。

 おかげで紫音は確信する。

 あの男は憎くて討つべき私の宿敵だ。ただ……前世の話なんだけれど!

 今の今まで忘れていた記憶が紐解かれ、そこで紫音の意識はぷつりと途絶えた。