そして,瑠花の表情もこころなしか(くも)っているように見えた。
「なんか,お母さんの様子おかしかったな。俺,気に(さわ)ること言ったかな?」
「ううん,そんなことないと思いますけど。多分母は,わたしの看病(かんびょう)で疲れてるだけですよ」
「そうかな?」
 この母娘(おやこ)は何か隠してる。あの時俺は,そう確信した。そして(のち)に,その確信は当たってしまったわけだけれど……。
「検査の結果ならもう出てます。あと数日で退院できるって主治医(しゅじい)の先生がおっしゃってました」
「そっか。じゃあ,退院したら学校に来いよ。俺,待ってるから」
「はい。……あの,先生」
「ん?」
 瑠花は何か言いかけて,「やっぱりいいです」と首を振った。その時に彼女は何だか思いつめたような表情をしていたのだが。今思えば,彼女はあの時すでに自分の死期(しき)が近づいていることに覚悟ができていたのかもしれない――。