「彼女の病状,今は薬で抑えられてるそうなんですけど。いつ悪化するか分からないらしいです」
「じゃあなおさら,よく注意して見てあげないといけませんね。何か兆候(ちょうこう)が見られたら,私に相談して下さいね」
「はい」
 今より重い症状が出たら,その時は俺も覚悟しないといけないってことだろうか。彼女との……永遠の別れを。
 その時の俺は,そのことを現実なのだと改めて思い知らされた。
「木下先生,お茶()めますよ?」
「あ……,ハイ」
 深刻な顔で考え込んでいた俺に,村田先生が呆れ顔で湯呑みを指差して言った。
 その時のお茶がすごく苦く感じたことを,俺は今でも鮮明(せんめい)に覚えている。