――一年前の春。二十五歳の俺は都立(とりつ)伸栄(しんえい)高校の教師になって三年目で,やっとクラス担任を(まか)された。それも,三年生の。
「みんな,おはよ。席に()いてー」
 三年一組の教室に入り,スーツ姿の俺が教卓(きょうたく)の前に立つと,男女合わせて三〇(さんじゅう)()らずのブレザー姿の生徒達が各々(おのおの)の席に着いた。
 始業式の前に,俺と生徒達はザッと自己紹介を済ませた。が,教室の中に一つだけポツンとある空席(くうせき)が俺は気になった。
「なあ,あそこの席の……えーっと,森嶋瑠花は今日休み? (だれ)(なん)か聞いてないか?」
 新入生じゃあるまいし,もう三年にもなると,友達の一人くらいはいるだろう。そう思い,俺は教え子たちに()うた。
「先生,瑠花なら二日前から入院してるよ」