そんな悲しい事実をためらいなく受け入れた彼女は,(いさぎよ)いけれど痛々しく見えた。
 人間,そんなに簡単に自分の死期を悟れるものだろうか? ましてや,人生まだまだこれからという高校生が。
 口では「死ぬのは怖くない」と言っていたけれど,本当は怖くて仕方なかったんじゃないだろうか? ……俺はその時,そんなことを考えていた。
「僕たちは,見守るだけで何もできないんでしょうか? 森嶋には,もっと生きててほしい。せめて卒業を見届けるまでは……。なんか,すごくもどかしいです」
 俺達は教職員であって,医者じゃない。だから,「生きていてほしい」と願うことはできても,彼女の寿命を()ばすことはできない。
 もし医者であっても,本人が延命(えんめい)を望まないことにはそれも叶わないのだ。
「そうですね……。私たちにできることは,彼女を最期まで見守ることだけでしょうね。彼女が悔いなく,穏やかにその瞬間を迎えられるように」
「……ですね」
 俺は止めていた息を吐き出すように頷いた。
 彼女に悔いを残させないために,俺は彼女と交際することに決めたのだ。……そのことまでは,村田先生には話せないけれど。