ネコは死期を悟ると,飼い主や親しい人の前からひっそりと姿を消すという。この時の瑠花もそんな感じだったのかもしれない。
「ホントにそれでいいのか? ツラい思いするのは森嶋の方かもしれないんだぞ?」
「うん,いいの。みんなにはいずれ,わたしの口から話すから。……ね,先生,お願い」
 それももう,彼女が決めたことだったのだろう。その()るがない決意に俺は(こば)むのを諦めた。
「……分かった。森嶋がそうしてほしいなら,俺からは言わないよ」
 渋々だけれど,折れることにした。
「ありがと」
 でも俺は,いざ彼女がツラい立場になった時には,江畑と共同戦線(せんせん)を張ろうと決めていた。彼女を守りたかったから。
 ――だいぶ彼女と話し込んでいたらしい。時計を見たら,H.R.が始まる一〇分(じゅっぷん)前になっていた。
「森嶋,そろそろ教室に行かないとな。先に行ってて。俺は職員室に寄らないと」
「あっ,ホントだ! じゃあ先生,また後でね」