「希望はあるから,(あきら)めるな」と言おうとした俺の言葉を,彼女は首を振りながら遮《さえぎ》った。
「いいんです。わたしは別に生きるのを(あきら)めたわけでも,自暴(じぼう)自棄(じき)になってるわけでもないですから。それよりもわたし,()いだけは残したくなくて。まだちゃんとした恋愛だってしたことないんですよ」
「うん」
 ……そうだろうな。俺は(うなず)いた。死ぬことが分かっているなら,心残りなく(おだ)やかに最期(さいご)を迎えたいだろう。
「それでね,木下先生。先生にお願いがあるんですけど。聞いてもらえますか?」
「うん?」
「わたしの残された時間を,先生に(あず)けます。だから,その間わたしの恋人になってくれませんか?」
「…………え?」
 俺は耳を疑った。(コク)られた? 教え子に??
 幻聴(げんちょう)だと思い込もうとしたけれど,衝撃的な告白をした彼女の目は,どう見ても真剣(しんけん)だった。