次の日の朝。店の前に彼はいなかった。

居たらいたで困る。
でも、居なければいないで気に入らない。

これはなんだろう。好きでもない人に一方的にフラたような、おかしな気分だ。

複雑に揺れる心をぶら下げて、私は眉をしかめながら店に入った。

やはりからかわれたのだろう。
――失礼な。

『僕の運命の人』なんてことを言われたのは、もちろん生まれて初めてのことである。

しかも相手はイケメンだ。
そもそも私は彼氏いない歴イコール年齢なのだから、突然あんなことを言われたら平気ではいられない。

「はぁ」
ため息をつきながら、開店準備をしていると、ドアベルの音と共に、勢いよく入口の扉が開いた。

「テイちゃん、おーはよぉ」

私をテイちゃんと呼ぶ彼女は親友の清水暁(しみず あかつき)
この店の、超がつく常連客でもある。

「いらっしゃーい」

「これ、母さまから。頂き物のブドウおすそわけ」

「ありがとう」

大学時代からの付き合いである暁は、出版社でバリバリ働くキャリアウーマンだ。
就職と同時に一人暮らしをはじめたものの、彼女は料理をしない。料理はできないと言ったほうが正しいかもしれないが。