「ああ、はい。いま開けますね」

暁の母さまは、すぐに現れた。

「突然すみません。あの、暁は?」

それには答えず、清水夫人は優しい笑みを浮かべた。

「どうぞ、はいってくださいね」



通されたのは和室の客間だった。
お茶を盆に乗せて現れた清水夫人に、お土産の菓子折りを差し出す。
「ありがとう。ごめんなさいね、心配かけて」
「いえ、それで、あの……」
「ええ。あの子から、手紙を預かっているの」

――手紙?

差し出された封筒を見ただけで、泣きたくなった。
暁はいない?

「あの子は、5年の予定で、ちょっと海外に。テイちゃんの顔を見たら気持ちが揺らぐから言わないで行くって」

――え?
「5年? 5年で帰ってくるんですか?」

「帰ってくるわよ。必ず帰ってくるから待っててって。あとは手紙を読んでほしいって言っていたわ」

「わかりました!」

「そちらは? もしかして一条定さんかしら?」

「はい」

「そう。あの子から聞いてました。テイちゃんに素敵な恋人ができたって。もしよろしければ資料見ていく? 考古学なんてやっているから、うちには沢山あるわよ? あなたの好きそうなものが」

「よろしいんですか?」

「じゃあ、どうぞ隣の部屋にあるの。テイちゃんはその間にお手紙でも読んで待っていてね」

「はい、ありがとうございます」