「そういうことだ。そうか、だからだったのか。あのジャズがとても懐かしく感じたのは」

「うん。ジャズだけはずっと私たち変わっていないから」

――もしかして。
もしかして私たちは、勘違いしているだけ?
想い出とか、暁のなぞなぞに、洗脳されたの?

そう思うと悲しくなった。

少なくとも私は違う。

原田に手を掴まれて助けてもらった時からずっと、一緒にカウンターの中に並んで料理を作ったり、彼の優しさに触れて心を動かされた。

暁のいない寂しさが、彼へを求める気持ちを加速させたことは違わないけれど、それでも私は勘違いなんかじゃない。

――あなたのことが好き。
これは勘違いなんかじゃない、私の想い。

「好きだよ」
ふいに彼が言った。

「きっかけはどうあれ、君に声をかけられて振り返って、一目ぼれだったと言ったら笑われるかな」
彼の左手が私の右手を包んだ。

手も、胸も熱くなる。

「――ありがとう」

「それにしても、あの手紙は暁さんだったのかな」

「そうだと思う。暁は、あなたのファンだから、だからいつも緊張していて」

「あはは、そうなの? もしかしたら僕は避けられているのかと思っていた」
「まさかっ」

――暁は、暁は……。
あなたのこと、帝だって思ってるからなの。

「絶対にそんなことはない! そうじゃないの!」

「うんうん。わかった。わかったよ」


泣きだしそうになる気持ちを抑えた。

いまは彼の話をしよう。