彼は、暁は大丈夫だというような根拠のない励ましも言わない。
ただ、手を伸ばせば届くくらいの近くにいてくれて、私を安心させてくれる。

今夜は泊っていってくれると言っていた。
その意味はわかっているつもりだし、いまは、彼の胸に顔を埋めてすべてに安心して眠りたい。

「片付け手伝おうか?」

「大丈夫。今日はお客さまが少なかったから、片付けも簡単」
と答えた、その時だった。

「暁から来てるぞ」
「えっ!」

店に入ってきた修兄さんが、ハガキをカウンターに置いた。
「郵便屋が間違ったのかな。店じゃなくて俺のポストに入っていた」

それは、美しい和紙のハガキだった。

「なんて書いてあるんだ? 全然読めねぇ」

修兄さんがそう言うのも無理はない。
表書きははっきりとわかるように書いてあるが、裏返すと書道で言うところのかな文字で書かれている。
つながった平仮名が美しい筆字だ。

正直私にも読めなかった。
「どうしよう、かな文字のところしかわからない」

見せてと言ったのは一ノ瀬さん。
彼には読めるらしい。

すらすらとハガキに書かれた文字を読みあげてくれた。

「京都はとても素敵で時間を忘れてしまいます。よばい星を一緒に見ることができなくて、ごめんね 暁」

「そっか。暁、まだ京都にいるんだね」

――よかった。暁はまだ京都にいる。