「修兄さん、一ノ瀬さんと昔の知り合いだったの」
「そうなの!? すごい」

「いい奴だから安心しろって」
「よかったね、テイちゃん。これで安心してお店に立てる」

「うん」
何を思ったか、暁はまたしても瞳を潤ませた。


その日の彼女は、ちょっと変だった。

「今日さ、仕事辞めて来たんだ」
「えっ!? 何かあったの?」

「ううん。何も問題はないよ。みんな引き止めてくれた」

「だったらどうして? 仕事大好きだったじゃない? 楽しいんでしょ? 働くこと」

「うん。楽しかった。でも、もともと期間限定の約束だったんだよねー。本当は2年で辞めるはずだったのに、居心地がよくてついつい3年になっちゃった」

そして小さな声で、「正体がバレるとまずいでしょ」と言う。

それはそうだろう。
本物の清水暁はほとんど家に籠っているとはいっても他に存在しているし、しっかりと仕事もしている。
彼女は元々この時代に存在する人ではないのだから、普通の生活を続けるのは難しい。それは私にも想像できる。

「あ、そうだ忘れてた。はい。この花あげる」

暁が差し出したのは大きな紙袋だった。
見れば中にはアレンジメントされた花籠が入っている。

「うわー、綺麗。暁に似合う明るい色の花を選んでくれたんだね」
オレンジを基調としたビタミンカラーは溌剌とした暁のイメージにぴったりである。

「いいの? もらっちゃって」