やっぱりあの男は信用できないと言われたらどうしよう。
その時は、自分の見る目がなかったのだと、あきらめるしかないのだろうか?

不安な気持ちを抱えながらジッと待ち、とてつもなく長く感じる5分が過ぎた頃、一ノ瀬さんは歩き出し、修兄さんはbarという電飾の看板を出して、ようやく店に入ってきた。

「あいつ、小説家なのか」
「え? 聞いたの?」

「ああ。知った顔とはいっても、俺が知っているのは随分昔のあいつだからな。いまは何をやっているのか聞いたんだよ」

「そうなんだ」
フッと笑った修兄さんはコツンと私の頭を叩いた。

「イタッ、なによぉ」

「なに泣きそうな顔してんだよ。しょーがねぇなぁ」
――えっ? 私、そんな顔?

慌てて顔を両手で覆ったがもう遅く、今度は恥ずかしさで赤くなってくるのが自分でもわかる。

「やめてよ、もぉ。からかわないで!」

「わかりやすいなぁ、お前は。まぁ、大丈夫だろ。あいつは昔と変わってない。正体不明の怪しい男じゃないから安心しろ。いい奴だ」

よかった。
"いい奴だ"。それは、この不愛想な従兄からすれば最高の誉め言葉に違いなく。私はなんだか自分のことのようにうれしかった。


夕方六時半。

「こんばんはー」
少しだけ入口のドアが開き、暁がひょっこりと顔を出した。

「いらっしゃーい」