一ノ瀬さんはクスッと笑って「ごちそうさまです」なんて答えている。
店を出る前に、「おさむちゃーん」と奥さまたちに呼ばれた修兄さんは、面倒臭そうに片手を上げて店を出ていった。
やれやれ。
「いつもあんな感じなの。ごめんなさいね」
「いえいえ。でも、僕がここにいることは了解してくれたということなんでしょう?」
「あ……。うん、そうですね! あはは」
もし問題ありならば、修兄さんのことだ、この場で帰ってもらえ、くらいのことは言うだろう。
昨夜、一ノ瀬さんの話をした時は『俺が3時から店に出れば済むだろう? そんな訳のわからない男やめとけ』とまるで相手にしてくれなかった。
とりあえず本人に会ってみてくれと頼み込んで、結局『お前からは言い難いだろうから、俺から断っておく』と言っていたのである。
それを言わないで席を立ったということは、修兄さんは彼を認めたことになるのだろう。多分。
夕方六時になって、修兄さんが再び二階から下りて来た。
既に帰り支度を終えていた一ノ瀬さんは、挨拶をして帰ろうとしていたところを修兄さんに引き止められるようにして、ふたりはそのまま店の外に出て立ち話を始めた。
一旦店に入ったのに、わざわざ一ノ瀬さんを誘うように外に出て話をするのはどうしてなのだろう。
私に聞かれたくない話をしているのだろうと思うと、途端に心配になってくる。