本当だろうか? 足とか、見えないところに刺してもおかしくないところが修兄さんの怖いところだけれど、深くは考えないことにした。

「あ、こちら、一ノ瀬さん。
 一ノ瀬さん、お話した修兄さんです」

ふたりとも身長は多分同じくらい。180cmを超えるくらいで、細身の中肉中背。

でも印象は真逆だ。

顎のあたりに髭を生やし、ウェーブのかかった黒髪の奥で切れ長の鋭い瞳を向ける修兄さんは、色で言えば明らかに黒。
同じウェーブのかかった黒髪でもサラサラで、微笑んでいるように見える優しい目元をした一ノ瀬さんは、爽やかな白。

そういえば歳は同じかもしれない。
ふたりとも30歳。

「奇遇ですね」

先にそう言ったのは一ノ瀬さんだった。
「え? 知り合いなの?」

修兄さんは、チッと舌打ちした。
「十年以上前だろ。忘れろよ」

「え? 何よ、なにがあったの?」

「俺がちょっと喧嘩してるところに、このお節介が割り込んできたんだよ」
「え?! それって、修兄さん助けてもらったってことでしょ?」

「いやいや優勢でしたよ。相手が5人だったのでズルいなと思って加勢しただけで」

「まぁ昔の話だ」
そう言ってため息まじりに修兄さんは立ち上がった。

「え? もう行くの? コーヒーくらい飲んでいけば?」

「俺からのご馳走だ。あんたが代わりにどうぞ」
あんたというのは一ノ瀬さんのこと。

「もぉ、失礼なんだから」