彼が現れた時に呟いた『運命の人に会いに』という言葉が脳裏に浮かび、ドキドキと鼓動が高鳴ってくる。

まずい。
赤くなったりしたら益々常連の奥さまや、一ノ瀬さんにも不審に思われてしまう。

頭を冷やそうとして用もないのに冷蔵庫を開けた時、カランカランとドアベルが鳴って修兄さんが現れた。

「あ、修兄さん」

修兄さんは、いまの私にとって保護者であり、親代わりのような存在だ。

私の実の兄は、都内を離れている。いまは事情があって母と一緒に母方の実家のある北海道に身を寄せているのだ。

私はこの店を守るために、ひとり都内に残った。

『なんとしても深雪を守ってちょうだい』
それが母の願いだったから。

私ひとりでは自分も不安だし、母も心配だったがそこで白羽の矢があたったのが母の妹の息子、修兄さんだった。

その当時の修兄さんは、友達のバーでバーテンをしていた。
ぶっきらぼうで、強面な見た目の通り、怖い世界にも友達がいたりするらしいが、私には優しい。

「どうだ? 手首は」
修兄さんはチラリと一ノ瀬さんを見ると、そのままカウンターに座った。

「うん。昨夜よりは」

「原田には釘を刺しておいた。もう心配ない」

「ありがとう。でも、あの、まさか、本当に釘を刺したわけじゃないよね?」

「は? 刺してねぇよ」