案の定、戻ってきた彼は少し困ったような笑みを浮かべた。
「いやぁ、参りました」

「すみませんね。もう、奥さまたちに、すぐからかうから」

「いえいえ。ただ、どういう関係かって聞かれましてね」
「やっぱり」

「どう答えようかと思ったんですけど、暁さんの友人ということにしてしまいました。暁さんとこの店に来た時に偶然ということにしちゃったんですけど、まずかったですか?」

「素晴らしい。それ完璧ですよ、暁には私からそう言っておきます」

もし正直にただの客だと言っても、彼女たちは納得しないだろう。
数日来ただけの客に店を手伝ってもらうことにしたなんて知ったら、それこそ一ノ瀬さんに一目惚れしたんでしょうとか大騒ぎになるに違いない。

何しろ目の前にいる彼は、そう思われても当然なくらい素敵な人なのだから。
まぁ正直に言うと、実際その通りでもあるのだけれど。


「あと、仕事は?って、聞かれたんですが、それも正直には言えず、自営なので融通がきくんですとだけ。その先は笑って誤魔化しました」

「はいはい。了解です。それで充分です」

「調理師の免許を持っていると言ったら、皆さん納得されていましたよ。こんなことに役立つとは、取っておいて良かった」

――え?
それは私の役に立てて良かったということですか?