まずサラダの仕込み。今日はサニーレタスと飾り切りにしたきゅうりとトマトの他に、コールスローにしようと決めている。
トマトを湯剥きして、材料を細かく切ってコーンの缶詰を開けて。

ひとたび包丁を持ったら集中だ。
雑念は消えて、トントンとまな板の音が響き静かに時間は過ぎていく。

カリカリベーコンとスクランブルエッグは、軽く温め直すだけの状態に。
香ばしい香りが漂ってくる。

開店時間まであと30分。
ひと息いれたところで、まずは自分の朝食。

いつもなら、コーヒーを淹れてゆっくりと食事を済ませるところだけれど、今朝はそうはいかない。外で相変わらず立っている男性のことが気になるので急いで食べた。

あのままというわけにもいかないだろう。
「うーん」

カウンターの中には、二階の修兄さんの部屋と繋がっている防犯ベルが二つある。
テーブルの下にあるので、いざとなればそれを押せばいい。
重い腰を上げて、声を掛けることにした。


「どうぞ、中でお待ちください」

「あ、すみません」
申し訳なさそうに頭をさげて、男性は店の中に入る。

どこに座ったらいいのか迷っている彼に「カウンター席へどうぞ」と促した。お一人様は通常カウンター席のどれかに座ってもらうことになっている。

「失礼します」

やや中央寄りの席に腰を下ろした彼は、物珍しそうにゆっくりと首を回して店内を見渡す。

その動きに怪しさのようなものはないので、少しホッとした。