彼女があのお方と言う人は、ひとりしかいない。
テイシさまの唯一無二のお相手、一条帝だ。

そもそも私がテイシさまの生まれ変わりだなんてことは信じられないし、ましてや彼が帝の生まれ変わりだなんてことは、口にすることすら憚られる。

でも、心を傷つけてこの世界にきた清少納言である暁が、そう信じたい気持ちはなんとなくわかるし、頭ごなしに否定しては可哀想だとも思う。

実は暁だって、私がテイシさまとは関係ないとわかっているのかもしれない。
それでもなお、悲しい記憶に、幸せな結末を重ねずにはいられないのではないだろうか。

どうあれ、暁はただひたすらに私の幸せを願ってくれている。
それで彼女の気が済むなら、それでいいと思った。

『暁、わかったよ。私大丈夫だよ、いつかあんたが驚くくらい幸せになるから……。大丈夫だから……』
気がつけば私はもらい泣きをしていた。


「それじゃ、帰りまーす」
「はーい、ありがとうミコさん、助かりました」

「いいのよ、じゃ、また明日ね」
ミコさんは暇さえあれば洗い物や片付けもしてくれて、いつも以上に頑張ってくれた。
無事にランチタイムの混雑を乗り切れたのは、ミコさんのお陰だ。

朝も、私の手の湿布を見た常連さんが片づけを手伝ってくれたりして、なんだけ申し訳ない。
『深雪』は街のみんなに支えられているから続けていられるんだなぁとシミジミと思った。