牛乳と一緒に出しておいた蜂蜜を入れてくれたのだろう。ホットミルクはほんのりと甘くて優しい。
カップから伝わるじんわりとした温もりだけで、心が落ち着いてくる。

「美味しい」
「うん。美味しいね」


コーヒーをいれている間にミルクパンを洗い、彼はカウンターの中の椅子に腰を下ろした。
その姿がとても自然で、なんだか自分がお客さまのような気持ちになる。

穏やかな、とてもいい感じ。
漂うコーヒーの香りと、静かなジャズ。3人とも何も言わないのに、この沈黙が気持ちいい。

どれくらいそうしていただろうか。
沈黙を破ったのは、暁だった。
「一ノ瀬さん、ここで、バイトしませんか? 11時から午後の3時まではバイトさんがいるんですけど、それから6時までは彼女一人になってしまうんです」

「ちょ、ちょっと暁。ごめんなさい、大丈夫ですよ」

一体何を言い出すやら、慌てて暁を制するけれど、暁は逆に睨んでくる。
「ダメだよ。あいつだって本当にもう来ないとはいえないでしょう? 私が来てあげたいのはやまやまだけど、戦力としてはちょっと自信ないし」

「セキュリティについては、もう一度修兄さんと考えてみるから」

すると「僕でよければいいですよ?」と彼が言った。