続けてまたドアベルが鳴り、次に現れたのは彼だった。

「なにしてるんだ!」

彼はハッとしたように目を見開き、真っ直ぐに川田に向かって走って来て、私の手を握る手の手首あたりを掴んだ。

「その手を離せ」
「イテテテテ」
「君、警察を呼んで」
「あ、はい」
モップを振り上げていた暁は、慌ててスマートホンを取り出そうとする。

「わかったわかった、警察は勘弁してよ、なぁサダちゃん!」

「暁、電話はいいよ。でも川田さん。その代わり防犯カメラの映像はおばさまに見せるから」
「ちょ、ちょっと待てよ、それも勘弁してよ」

デカい図体を小さくした川田は、オロオロしながら出口へと向う。

「コーヒー代はいらないから、二度と来ないで。今度私に近づいたら映像おばさまに見せるからね!」
舌を打ちながら、背中を丸めて川田は店を出ていった。

「大丈夫ですか? 警察に突き出した方が。知り合いなら尚更では」
彼は冷静だ。

「あの人、マザコンで警察よりもママの方が怖いんですよ。だから大丈夫です」

暁は腰を抜かしたように、ヘナヘナとカウンターに腰を下ろす。

「大丈夫?暁、ビックリさせちゃったね。ちょっと待って、いまホットミルク作るから」

ミルクパンを手に取ると、ズキッと手が痛んだ。

――イタッ。
見れば掴まれたところが赤くなっている。

でも大丈夫。
我慢できない痛みでもないし、折れているような心配はない。