「大丈夫大丈夫、すぐ戻るから」

コンビニエンスストアまでは一分もかからないので、そう心配はないが。

暁は、少しくらいの雨だとかえって気持ちいいといって傘をささないのだ。
この時代の雨は、汚れた空気を吸っているから良くないよと言って聞かせるが、どうせお風呂に入るからいいと言って気にしない。

どうやら平安の都ではほとんど外に出ることはなかったので、そんな経験すら楽しいらしかった。

そうこうするうち、3時45分になった。
さあ、彼は来るだろうか?

コーヒーを飲みながら外を見つめていると、店の前に立ち止まる大柄な男性が見えた。
一条さんではなく、知った顔だ。

――はぁ。
思わず顔を歪めるには理由がある。

男は、真っ直ぐにカウンターに向かって歩いて来た。

「いらっしゃいませ」

ぐるりと店内を見渡して、男はニヤニヤと下卑た薄笑いを浮かべる。

暁はノートパソコンをバックに入れて出かけたらしい。彼女がいた席には、コーヒーカップがあるだけだ。

「ひとりで店番かぁ、相変わらず不用心だなぁ」

やかましい。お前のような奴はそうそういないからご心配なく。と咥内で反論しながら水を出す。

「何になさいますか?」

「生ビールと、唐揚げ」

「その注文は6時過ぎでないと受け付けません」